懐の深さと成長の予感【ほぼ中卒社員がトヨタの副社長に】

現場叩き上げからトヨタ副社長に就任

工場を支える「人づくり」に情熱注ぐ河合氏

(日経ビジネス2017年3月6日)

 工場の現場で働く技能職の出身者が初めてトヨタ自動車の副社長に就任する──。トヨタの4月1日付人事の目玉の一つが工場統括の専務役員である河合満氏の副社長就任だ。有名大学卒の経営幹部が多いトヨタにおいて異色の人事であり、河合氏への関心が高まっている。2016年12月に実施した、「日経ものづくり」2017年1月号特集「トヨタ 止まらない進化」の取材をベースにその人物像に迫る。


 河合氏は中学卒業後にトヨタの企業内訓練校であるトヨタ技能者養成所(現トヨタ工業学園)で学び、「カローラ」が発売された1966年にトヨタ(当時はトヨタ自動車工業)に入社。以来半世紀以上にわたりトヨタの工場で一貫してものづくりに携わってきた。


 当時のトヨタは愛知県豊田市の本社工場と元町工場の2つしかなく、地方の小規模な自動車メーカーに過ぎなかった。クルマ生産の工程はほとんどが手作業で「溶接も鍛造も全て手打ちでやっていた」(河合氏)という。

 最初に配属されたのは鍛造部。赤く熱された鉄をハンマーで叩いて加工する仕事で、中世から続く“鍛冶屋”の延長線のような世界だった。個人の技能がダイレクトに製品の品質に反映される。そんな仕事に河合氏はほれ込み、金属加工の技を磨いた。


「機械と人間の両方のレベルアップが欠かせない」

 工場を進化させるには機械と人間の両方のレベルアップが欠かせない。「自動化されたラインよりもさらに高いレベルの人材を育てないとものづくりは進化しない。だから人間の技能レベルもどんどん伸ばさないといけない」(河合氏)という考えに立ち、生産プロセスの改善に取り組んできた。

 こうした経験を積んできた河合氏は、高い技能と現場での指導力を買われて、本社工場の鍛造部部長、同副工場長を経て、2013年にトヨタの技術の最高職である技監に就任。2015年には工場統括の専務役員に就いた。技監になって以降は全社の製造現場における人材育成に力を注いできた。


 「ものづくりでは原理原則や過去からの進化の過程を知ることが大事だ」というのが河合氏の信念だ。しかし工場の現場を改めて見渡すと、自動化が進んだ結果、人間が手でやる作業がなくなっていた。そこで塗装や組み立てや機械加工などで自動化されていた工程にあえて手作業ラインを設ける取り組みを進めた。

 時代に逆行するような動きだったが、現場の反発を恐れずに推進した。


 技能職が持つスキルレベルも検証。トヨタには40時間程度かけて学ぶテキストなどを含む教育制度は充実していたが、知識だけではない技能の教育に課題があると感じた。「もっと高いレベルの匠の人間を作らないといけない」と考えた河合氏だったが、実際にどう教育すればいいのかは模索が続いた。


 「この工場で組み立てが一番うまい人は誰なのか」「困ったり、問題が起きたりした際に力を発揮する“神様”は誰なのか」。さまざまな製造現場でこう問いかけたところ、高いスキルを持つ技能者には定年間近の人ばかりが目立った。

 2番目にスキルがある人のレベルを確かめるとトップの人の8割くらいの水準だったりする。トップクラスの技能者が2~3年で定年を迎えて、次の人材が成長しないままだったらどうなるのか。背筋が寒くなるような状況だったという。


機械に使われる人間になってはいけない

 「このままでは技能者が機械に使われるただの人になってしまう。自分が先輩を超える。自分が先輩を超えたら自分を超える次の人を育てよう」。河合氏は社内で熱心にこう訴えかけて、新たな人材育成の仕組みである「高技能者育成」が始まった。


 各工場から35~40歳程度の優秀な人材を集めて1年間特別に教育して高技能者として徹底的に鍛える。例えば、2015年12月にフルモデルチェンジしたハイブリッド車「プリウス」の生産を立ち上げた際には、複数の工場から組み付けが得意な5人の技能者を集めて、トヨタの新しいクルマづくりの設計思想である「TNGA(トヨタニューグローバルアーキテクチャー)」に対応したドアラインを担当させた。


 「ドアの組み付けラインを5人でゼロから考えてほしい。全責任を君たちに取ってもらう」と告げて担当させたという。選抜された5人は百戦錬磨で自信を持っていたが、TNGA対応の新しいラインを立ち上げるためには、それぞれのメンバーに足りないさまざまなスキルが見つかった。短期間でラインを作りこむにはどうやればムダなくできるのかを徹底的に考えさせて、生産性の高い組み立てラインを実現した。


 工場間の垣根を越えて、優れた技能者を育成するのは、グローバル生産をにらんでいるからだ。トヨタには世界28カ国に53カ所の製造拠点がある。「カローラ」や「カムリ」「RAV4」など世界各地の複数の拠点で製造する車種も多い。

 しかし新興国と先進国では技能者のレベルに加えて、造り方や自動化比率にも違いが大きい。そんな中で日本の生産現場の人材が海外の支援をする必要がある。そこでは口先だけの技能者では許されない。高いレベルの技能がないと環境が違う世界の工場で教えることができないからだ。


 以前は1つの工場がマザー工場となって海外の子工場を支援していたが、多様な車種をまたいだ部品の共通化が進むと、世界各地の工場を同時並行で支援する必要が出てくる。このため多数の工場を横断する形で、優れた人材とその人が持つ技能をリスト化し、状況に応じて国内外の他の工場を柔軟に支援できる体制を作ろうとしている。


「片道切符の覚悟でやってくれ」

 河合氏は高技能者として選抜されたメンバーを「何かあったら欧州でも米国でも支援に行ってくれ。良くしないと元の工場に戻ってこれないという“片道切符”の覚悟でやってほしい」と言って激励しているという。

 このような高技能者は塗装、鋳造、鍛造、成形といった各工程別に合計100人以上育成しており、今後も増やしていく予定だ。河合氏は年間で40~50人の高技能者を育成したいと考えている。

 「優秀な人間を集めて1年間にわたり侃々諤々の議論をさせると、自分はこんな部分が弱かったなど多くの気づきを得られて成長していく。世界でどこの工場に行っても活躍できる人材になる」(河合氏)。

 2017年1月2日で69歳になった河合氏。60歳になった頃には年金をもらって悠々自適で遊んで暮らそうと考えたという。しかし「持ってもらえないか。もう一度、現場を再強化してほしい」と引き止められた。その後、工場の現場をずっと歩いて見て回る中で危機感が高まっていったという。

 溶接は全部ロボットに任せており、現場のリーダーに「専門技能は何級だ」と聞くと「私はA級です」「私はB級を持っています」と答えるが、手作業で溶接をやらせると下手だった。自分ができなければ、溶接に問題があってもそれを見抜けない。

 ロボットはすごくきれいに溶接できるので「ロボットは溶接が上手いので大丈夫です」と答える責任者もいた。溶接は見た目がきれいでも強度が弱い可能性がある。反対側から力がかかったらボロッと折れないのか。

 ちゃんと接合できているかどうかを判断するには裏や表を見る必要がある。溶接した部分がどれくらい色が変わっているのか。本当に熱が伝わっているのかといった点は自分の手で溶接した経験がないとなかなか見抜けない。


リコールで品質は生命線だと痛感

 ロボットも使い続けていると精度が悪くなったり、不具合が起きたりする可能性がある。ロボットが壊れる兆候をどう見抜くのか。「いろいろなセンサーが付いていて、問題が起きたら止まります」と現場の担当者は言うが、機械は必ず壊れるものだ。センサーで動いているかどうかを判断するのではなく、問題なく動いているのかどうかを見抜く技能が現場の担当者にあるのか不安になったという。

 このままでは引退できないと感じたからこそ、河合氏は製造現場における人づくりの再強化に情熱を傾けている。


 2009~2010年にかけての大規模リコールでトヨタが窮地に陥ったことを今も河合氏は今も鮮明に覚えている。「リコール問題の時は会社がつぶれるんじゃないかと本気で思った。その時が一番大変で一番の危機だった。品質がいかに会社の生命線なのかを再確認した」という。

 品質改善には終わりがなく、それを支える製造現場の人づくりにも終わりがない。河合氏はそう信じている。異例の抜擢人事は、ものづくりを支える現場を大事にするトヨタの姿勢を改めて際立たせた。


副社長に就任する河合満氏

 ちょうど高度経済成長期に突入していた日本ではモータリゼーションが加速。瞬く間にトヨタは大手メーカーへと成長を遂げた。同時に急速に進んだのが工場の自動化だ。河合氏はこのような工場の自動化を、現場のリーダーとしてずっと支えてきた。

 「まさしく匠の技能を形式化し、標準化して自動化してきた。さまざまな工法を人間が知恵や工夫を入れて進化させてきた」(河合氏)。ものづくりの原点は手作業で、人間の技能と新しい技術が常にスパイラルアップしながら新しい技法へと発展する。ロボットや機械が自分でいい方法を編み出すわけではないからだ。

 例えば、溶接工程のロボットは人間が教えた通りに作業する。スキルが低い人が教えれば、そのレベルでしかできない。しかし溶接コンクールで日本一の技能者が教えるとロボットの作業レベルも上がるという。

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恥ずかしいので、私のコメントをmoreに隠した。
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ほぼ中卒を、専務からさらに副社長にまで上げるのがすごい。
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従業員は「懐の深い会社だ」と忠誠を誓うようになるだろう。
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恐らくこの河合さんは、ものすごく嫌われていたと思う。
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嫌われるという拒否を、仕事の出来という成果ではねのけたということだ。
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これがなければ、本物はできない。
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トヨタはまだまだ成長する。
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株を買いたい。
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by cwhihyou | 2017-03-06 08:03 | Comments(0)
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